片雲さくら

真夜中のパン屋さん/大沼 紀子

「カッコウな母親」。カッコウは托卵する鳥。自分が産んだ子供を他人に預ける母はカッコウだから仕方がないのだと、親戚やら色々預けられて育った希実はそう思っていた。腹違いの姉のもとへ行けと、母の置手紙を頼りにやってきたパン屋は、真夜中に営業する不思議な店だった。
だが腹違いの姉は半年前に他界し、その旦那と横恋慕男と二人でやっているパン屋さんに希実は住みこむこととなった。

 

腹が減ってると不機嫌になる。
パンはどこでも、一人でも食べられる。
まあ、確かにそうかもしれんが、電車の中やホームで食ってる人がいるとちょっと勘弁してくれと思う。立ったまま食えるとしても、「食事」と思うなら、せめて座ってくれ。 食う場所は選んでくれ。
と、常に怒っている私も腹が減ってるだけなのだろうか。
表紙の絵があまり好きになれないので、買わなかったんだけど、あちこちの店でやたら平積みになっているので、負けてしまった。たった二ヶ月で10版になっているので興味を持った。

 

パン職人の弘基と、やたら口げんかしまくる希実のゆるーい会話やら、ちょっとイタイガキやら、でかすぎるオカマやら、ヒッキーな覗きマニアやら、出てくる人々やら設定やらはラノベな感じがするけど、根元は世相をしっかり映しだしていたりして、桂望実や石田衣良とテーマはそれほど変わらない気がしてくる。
客さばきがやたらとうまい暮林。人を和ませる関西弁とそのやたら穏やかな顔で、いつでもなんにでも腹を立てているという希実でさえ和んでしまうというのはいいと思った。

 

それにしても夜23時から29時までの営業時間って、はたして本当に需要があるんだろうかね。近場に眠らない街があったりするならわからんでもないけど、せめて朝7時までやってたりするならまだ納得いく、つか、そうした方が重要があるんじゃないかね? そもそも彼らはいつ寝てるの?
希実に至っては高校生。準備中にデリバリーとかしてるとしても、なんか無理がある気がするんだよね。

 

「別にいいよ、心がなくても。私のを、半分あげるから」
そして油性のマジックで、暮林の胸にハートマークを描いてみせた。インクくさいと暮林が顔をしかめると、愛ってくさいものなのよと言い返された。そうなのかと暮林が納得すると、かわいい人ねと笑われた。
(P275)
暮林の真相にせまるこの章が好きだ。貼りついたように誰にでもどんな状況でも、常に笑顔を見せられる人はポーカーフェイスと一緒だと、或いはどこか壊れていると思う。なので、胡散臭いと思っていたが、彼の過去と今、そしてこれからを匂わせているところがなんだが嬉しかった。
「…何がたらんくて、そんなしんどそうにしとるんや?」(P63)
このセリフは、泣かすつもりの確信犯のセリフだったのだなと納得する。暮林、善人ではない。そこがいい。
続きが出てもいいかも、しれない。

 

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片雲さくら

SugarlessII / スガシカオ

評価:
スガシカオ
?アリオラジャパン
¥ 2,526
(2011-08-10)
【ディスク1】
  1. コーヒー
  2. 月とナイフ (piano ver.)
  3. ホームにて
  4. 夏陰~なつかげ~ (Original ver.)
  5. ファスナー
  6. TOKYO LIFE
  7. コンビニ
  8. 真夜中の貨物列車
  9. ネコさん
  10. ガリレオの数式
  11. 黒いシミ
  12. Progress (piano ver.)
  13. アオゾラペダル
  14. 世界が終わる5秒前
  15. ぬるいビール
  16. Loveless
  17. 1/3000ピース
  18. Real Face

 

スガシカオ15周年プロジェクトとして動き出しているようで、ついに「SugarlessII」が出ましたの買ってみました。
今回はラブソングだそうで。
ああ、シカオちゃんのラブと言ったら、フツーに男女のソレだけじゃないだろうし、そんな歌はそれほどないわけだし、そっちだよね、と最初からわかってはいたけど、エンドレスで聴くようなアルバムではありませんでした。
「真夜中の貨物列車」や「ネコさん」とか「ぬるいビール」とかね。続くとなんでもなくてもけだるくなる気持ちです。
まあ、アルバムという作りではなく、こんな作品をカップリングに入れてたり、
他人に提供したりしてましたよってなレジュメ的な感じがする。

 

ファスナーはスガシカオファンクラブイベント〜春の宴〜 第一夜で歌った曲ですね。
桜井和寿(Mr.Children)さんとのコラボ。映画上映でも使われたそうですが、シカオちゃんの歌い方はエロいなぁと思ってたが、桜井さんの吐息混じりの歌い方はさらにエロくていいですねぇ。
ステキすぎる楽曲です。

 

Loveless はオーガスタキャンプでやった曲でしょうか? 
セッティングにやたら時間がかかりながらも、妖しげな機材ひとつで打ちこみからなにから、「ここが素晴らしい」とドラムもベースもキーボードもギターも歌もできるから、一人っきり籠れる理由を解説しつつ、歌ってたね。かっこいいと思ってしまった。
シカオちゃんの声だからエフェクトの必要もないけど、それでもやっぱり面白いね。

 

Real Face もファンイベントの時、リクエストに上がった曲でしたね。
「歌えるわけないだろう、バカヤロー」的なこと言ってましたけど、負けず嫌いだから、いつかちゃんと歌うんだろうとは思ってましたけど。
やっぱりスローテンポになっているから、無茶な大人に聴こえます。

 

さてはて、来年は15周年。なんかいろいろやるのでしょうけど、(まぁ、イベントの趣旨にもよるけど、)久々に言ってみようかねなんて、友達と話してたりします。

 

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カラスの親指/道尾 秀介

詐欺で生計を立ててる男・武沢。相方のテツさんは鍵屋として騙しにきて、なぜか住みついてしまった。ある日、二人がアパートへ帰ってくると消防車が。武沢は一人娘を火事で亡くしていた。火事の原因については闇金とのトラブルがある。テツさんにも闇金による暗い過去が…。
借家を追われ新しい生活をしようとする中、二人は似たような仕事で金を稼ぐ少女を見かける。行くあてのない彼女を招き入れる武沢には彼女を放っておけない理由があった。

 

生業は詐欺、そして二人の過去には闇金に依って家族を亡くすという哀しい出来事が、ということで、暗くなるのかと思いきや、ほかにでてくる飄々としたキャラや、あまりトモダチにはなりたくない飛んじゃってるキャラが居たりするせいか、はたまたタケさんテツさん二人の会話がのらりくらりしてるせいか、重くはない。
都会の片隅で、なんの関係もない男女5人が住むことになるんだが、なんだかそれだけで楽しそうだったりする。
なんつーのか、旅にも出ずに山小屋気分またはB&Bみたいな、行き摺り感覚。ドラマとかでみるとルームシェアが楽しそうに見えるわけがなんとなくわかった気がした。

 

武沢をどこまでも追ってくる闇金。脅し。家を変えてもそれは続いた。
そして、逃げてばかりじゃダメなんだと、立ち向かおうとする彼ら。
事実は知らんけど、闇金漫画だの映画だので知るかぎり、「舐めてんだろう」と思わざるを得ない。詐欺で生活してきてるからって、大がかりなシナリオはやっぱり机上の話にしか見えない気がして、どうもこの反撃のあたりから、噛み合わない気分満載。

 

「ラットマン」でも感じたけど、わかってて言わない。後回しにすることで、別にミステリーじゃない話だったねっていう展開が、明らかに敷かれているのが、味と言えばそれまでだけど、2作目からは詰まらないだけだ。
“そして作戦は終了した”以降、私はいらないんじゃないかと思う。
「もしかして」と匂わせるだけのほうがあれこれ考えられて面白いと私は思う。そんなツッコミ用もないほど、隅々まで審らかにする必要があったのかな。
手品の種明かしはしちゃいけないということだと思う。手品ならまだしも、そこまでデキすぎた話なんて、いくらなんでも都合良すぎるだろう。

 

 

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儚い羊たちの祝宴/米澤 穂信

幼い頃から丹山家に仕えるようになった夕日は、お譲さまを心底敬愛して育った。内緒の買物を頼まれるのが嬉しかったし、その多くは“お嬢様”として本棚に並べられない隠すべき本であり、その隠し棚も作った。本に嵌った二人。大学に進んだお嬢様は「バベルの会」という読書会を楽しみにしていた。
お嬢様と違って、家督を継げない兄はある日、銃を持って屋敷の人間を殺して回る。ちょうど稽古をしていたお嬢様自ら兄の手を刀で切り落とした。兄は勘当どころか死んだものとすることになり、実際、屋敷でも何人か死にお嬢様は読書会の集まりに行けなくなる…。
(身内に不幸がありまして)

 

夕日という召使いの手帳による独白から始まる。まぁ、日記みたいなものなのだろうからアバウトな背景ではあるが、どうやら尚月地な世界っぽいような、ちょっとレトロな時代背景と金持ちのお嬢様と召使いの話が5つ載っている。
なので、「隠すような本」というとやはりその当時でいう異端小説だのミステリーだったりする。BLや同人誌じゃないw

 

尚さんを思わせるというのは、とくにお嬢様や召使たちの思考がね。あの血管を浮き上がらせて瞳孔開きまくってるだろう表情をまんま思い出させるような展開になったりするからだ。
「北の館の罪人」ではとくに、最後のシーンまで尚さんの絵で想像がつきました。

 

「ラストの一行で世界が反転」
帯にそうあるが、反転はしない。が、「おお、そうくるか」って綺麗な読み切り方でまとまっていることに間違いはないです。
そして毎回出てくる「バベルの会」という名。大学の読書会だという。
女が勉学だなんてと言われていた時代、裕福なお嬢様だけが通う学校の中の読書会。そりゃ想像するだけでコワイだろう。
最後の話ではその会についても明らかになる。
なるほど。短編集だけど一冊にまとまるって言うのは、やっぱり面白いですね。

 

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片雲さくら

8月に読んだ本(2011年)

8月久々に読んだ読んだ。
砂時計は1巻から何度も読み返したけど、面白かった。
つか、泣きましたわ。
最近、ドラマとか映画とかさっぱり観てないので、そういうノリで楽しめた作品でした。
それより、レビューが追いついてないですな(汗



8月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:3727ページ
ナイス数:46ナイス

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)
お嬢様故の、またお嬢様に仕えるものの、黒さというのを楽しめるミステリー。尚月地さんの絵で想像しながら読みました。
読了日:08月25日 著者:米澤 穂信
海街diary 4 (flowers コミックス)海街diary 4 (flowers コミックス)
風太くんは身近な感じがしてとても好感がもてる。大人びているようでグラつくすずをしっかり見守ってほしいものである。「おいしいごはん」でまた鎌倉に遊びに行きたくなった〜
読了日:08月23日 著者:吉田 秋生
バーにかかってきた電話 (ハヤカワ文庫JA)バーにかかってきた電話 (ハヤカワ文庫JA)
映画化ということで表紙買い。大泉洋を想像しながら読むとなかなかハマっているような気もしないでもない。でも高田は違うかなぁ。
読了日:08月16日 著者:東 直己
砂時計 5 (小学館文庫 あK 5)砂時計 5 (小学館文庫 あK 5)
番外みたいな話を集めたものですね。佐倉さん、意外に嫌いじゃないかもなぁと思ったり。脇役もしっかりと根底があるんだなと納得するそれぞれでした。
読了日:08月14日 著者:芦原 妃名子
砂時計 4 (小学館文庫 あK 4)砂時計 4 (小学館文庫 あK 4)
この作品の中で一番好きなのは、杏のおばあちゃんかも。泣いたわ。「しゃんとせぇ」
読了日:08月14日 著者:芦原 妃名子
砂時計 3 (小学館文庫 あK 3)砂時計 3 (小学館文庫 あK 3)
読了日:08月14日 著者:芦原 妃名子
砂時計 3 (小学館文庫 あK 3)砂時計 3 (小学館文庫 あK 3)
藤くんがいい男すぎる。やっぱり、殻を破った男の貫録なんだろうなぁ。好きだ☆
読了日:08月13日 著者:芦原 妃名子
魔女の1ダース―正義と常識に冷や水を浴びせる13章 (新潮文庫)魔女の1ダース―正義と常識に冷や水を浴びせる13章 (新潮文庫)
言葉は文化や国の歴史や宗教なんかが刻まれているものだと思うので、作者の目線はところどころ面白い。裏表ないというか、怖いもの知らずというか、失言と呼べるものもあるし、デリカシーは感じられないので、面白いと思う人もいるだろうがトモダチにはなりたくないタイプだ。
読了日:08月10日 著者:米原 万里
水域(下) (アフタヌーンKC)水域(下) (アフタヌーンKC)
ファンタジーではあるけど、ダムの必要性とか、水不足や災害について、色々考えさせられる話だった。最後はほっとする終わりでよかった。
読了日:08月08日 著者:漆原 友紀
水域(上) (アフタヌーンKC)水域(上) (アフタヌーンKC)
息ができない不快指数を感じるような質感に溢れていて、この作者ならではの話だなと思った。
読了日:08月08日 著者:漆原 友紀
ひまわりの祝祭 (講談社文庫)ひまわりの祝祭 (講談社文庫)
ハードボイルドだと思って読んでたので、肩すかし。主人公が茫洋としている、行ってみて考える、なにかひっかかるで進むので、気持ちを捉えにくかった。
読了日:08月06日 著者:藤原 伊織

読書メーター

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片雲さくら

砂時計1〜5/芦原 妃名子

離婚により母とともに島根にきた12歳の杏。「かわいそうな子」として村の人たちがなれなれしく話かけてくることにも、祖母の厳しさにも最初はムッとしたが、同い年の大悟と出会い村の生活に慣れていく。身体の弱い母を助けるためバイトを探す杏と一緒に、村一番デカイ家・月島家へ。そこには同年の兄・藤と、可愛い妹・椎香がいた。出入りするうちに仲良くなる4人。しかし、心のバランスも崩してしまった杏の母は、杏を残して死を選ぶ。「がんばれ」と言ってはいけないと医者に言われてた杏は、母の死に怒りを感じながらも、深い傷として背負いこむ。
島根に来るときに母と二人でいったサンドミュージアムで買った砂時計。母の遺影にぶつけて壊してしまうが、大悟が同じものを買ってきてくれた。「ずっと一緒におっちゃるけん」大悟の言葉に、杏はその思いを祈りに変え、成長していく。

 

 よく笑いよく泣く。感情を素直に表し、喧嘩っ早いところもあるが「こう」と思ったら即行動。しかし、一つ気になり出すと悶々としてしまう。
大悟 杏の母と大悟の母は高校時代の親友。杏と出会い、杏の強さともろさを知りつつ、12歳のその歳で男として背負おうと思ったすんごい男。その気持ちは何があっても変わらないだろうと思わせるも、いやはや身近なところで足を救われる。
 月島家長男。12歳でとっくに捻くれてはいたが、それには痛々しすぎる理由があった。金持ちの息子として堅苦しい家から飛び出し、自らの傷を抉る結果となろうと問題に立ち向かう。杏が好きな気持ちを抑えており、いつ爆発するか、その後はどうなるかが…ね。
椎香 「えぐっえぐっ」と泣かされながらもついてくる子犬のような可愛らしさ。そりゃ化けるだろうと思ったら、可哀そうな事実が彼女を襲う。

 

他、いろいろと登場人物がおります。横恋慕してイジワルに走る女子とか、金持ちを僻む村人とか、お父さん、おじいちゃんおばあちゃん、トモダチ。
何歳のころ、みたいなダイジェスト的に話が展開するので、ま、昼ドラ的なものもあるんだけど、毎巻、ダラダラと泣きながら読みました。
時にまっすぐすぎる気持ちに、歯がゆさに、苛立たしさに、悔しさに。

 

杏が高校に上がる段階で、ずっと一緒に居たいと思った大悟より、東京のお父さんと暮らすことを決める杏。
「大事なものはどうしてひとつじゃないのだろう」
借金こさえて逃げた父って説明だったので、なんか唐突な気もしたけど、描かれてないだけで12歳まで一緒にいたのだから、それなりに好きなんでしょうね。ってことで、基本的に遠距離恋愛がテーマとなる。
が、島根に残った大悟と椎香。東京に来た杏と藤くん。そりゃ、ムフフだよねぇ。
藤くん、つっぱったとこあるけど悪い人じゃないし、気持ちがすでにこっち向いてるしねぇ。たまらんです。
とある事情を抱えていた藤くんはある日突然、杏の前からも消えてしまうんだが、それまでの彼は笑い方さえどこかぎこちなかったけど、戻ってきてからはホントに柔らかくなった。
でも、公認で杏と付き合いだしてからのソレはありえねぇ。無茶過ぎ。つか、付き合うってよりもう、見守るだけって意識で居たのかしらねェ。勿体ないいい男でした。

 

同様に、椎香ちゃんも楢崎さんも、転んで立ちあがってからはまっすぐ向いている。
変わろうと思えば、(若いから)変わることもできる人もいるのに、わかっていても前を向けないって人もいて、面白いもんだなと思った。そう、面白いと思ってた。まさか杏が…って思ってたから。
おばあちゃんを泣かさないでください。
そう、佐倉さんの話まであるのがびっくりだったわ。
5巻はその後の話とスピンオフですね。
月島の嫁、そうか。こういう風に描かれるといやな女ではないな。

 

つーわけで、読み応えのある少女漫画でした。

 

砂時計 2 (小学館文庫) 砂時計 3 (小学館文庫) 砂時計 4 (小学館文庫) 砂時計 5 (小学館文庫)
砂時計 1〜5 (小学館文庫)
芦原 妃名子 (著)
小学館

 

 

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