片雲さくら

きのう、火星に行った。

きのう、火星に行った。/笹生 陽子/講談社文庫
面白かった。へそ曲がり的な主人公の気持ちがよくわかるので、「いいぞ」って感じです。心にぐっとくる言葉がたくさんあって、よい本だと思いました。
主人公の山口拓馬(小6)は特に努力などしなくても勉強もスポーツのできる子なもんだから、努力が嫌い、マジになるのはタルイし、人気はあるけど友達とも進んで遊ぶわけでもなく、いつもなにもかも中途半端。でもそれでいいと思っていた。だかある日、クラスで選ばれハードル走の選手になってしまった。さらにその日、病弱なために今まで遠くで暮らしていた弟が帰ってきた。静かな生活ががらりとかわり、うるさくて妙ちくりんな弟を好きにはなれない。ハードル走の練習だってやりたくない…。
って感じの話。主人公は小学生だけど、でも「ちょっと頑張ればできるってわかってるから、いい」って感じの人は多いのじゃないか? 「もうちょっと頑張る」ってことを「どーでもいいよ、そんなの」って。別の言い方すれば、「やる気になればできるんだ」って言い聞かせてるだけで、最後までやり遂げないって、そんなこと。
「はっ」と思いましたね。滅多に怒らないお父さんに殴られて言われた言葉とか、最後のところとか、なんつーか、目覚めさせられたって感じです。私もかなり超適当が心地いいと思ってる人間だからなー。読み終わってとりあえず謝っておきました。「ごめんよー」
まぁ、でもこの弟は私は好きにはなれないなーと思ったけど、それでも優しくなっちゃうんだからやっぱ、お兄ちゃんってスゴイんだね。弟が言うこともわかるけど、だからって「セブン」より「スピルバーグ」が面白いって言われても困る。(「セブン」じゃなかったかな…?)
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片雲さくら

ラッシュライフ

ラッシュライフ/井坂 幸太郎/新潮社
だめだ。人はそこを絶賛するのだろうけど、「どうしてそういう書き方にしたんだ」って苛立ちで終わってしまう私は、井坂ワールドに喜びを感じないタイプかもしれない。
足の爪の間に蟻のタマゴを埋め込まれてしまうかもしれないけど、あえていうと喜劇も悲劇も他人から見れば全てドタバタコメディだ! ってことを主張し続けているだけって気がしてくる。なので、私みたいな浅い奴から言わせて貰えば、井坂作品の縮図が『ラッシュライフ』なんだろうって感じ。街ですれ違うそれぞれの人に舞台があり、スポットライトがあり、物語があり、そしてそれぞれはどこかですれ違っていたかもしれないし、接触していた。世界は思っているよりも狭い、そんな話。終わったはずの話もこんなところで「まだ生きてます」って主張してるみたいで(それが面白いし、素晴らしいという人ばかりみてきたけれど、敢えて言おう!)、ダラダラしこり残してんじゃねーよ。
チョイスも悪かったかもね。三作共通なのは「犬を人より大切に思う人物」「口だけで生きてる男」「犯罪を楽しむ」ってところ。あと父という存在感に圧死しそうになりながら生きてる男の理屈(これは説得力があって好きだけど…)。人物それぞれは魅力あると思うんだけどね。セリフ一つがかっこ良かったりするんだけどね。
重箱の隅を突けば、トランク開けても見えない位置に大人一人隠れるスペースがある車って何? スーツケース開けられる高さ(深さ)もあるってどんな? モデル並の顔で若ければ、人肉並べて遊ぶ女の策にも乗る?
んー、なんだろう。なんだかな。多分、もういいよってくらい完ぺきだったら申し分なかったのかもしれないけど、「ラストシーン」として描かれなかった「主役」ではなかった係わりを持った人たちがちゅうぶらりんで、このタイトルを付けるに相応しくはなかったのではないかって…ところですかね。
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片雲さくら

いつも上天気

いつも上天気 全2巻/聖 千秋/集英社文庫
デビュー作から好きでした。と言ってもコミック2冊買ってそのあとは少女漫画から離れてしまったのでほとんど知らないんですが。昨日、本屋で「目が合って」しまったので買いました。
周りの人を笑わせるのが好きな明るい女の子「宝」。音楽学校に通っているけど楽器を頑張ろうというよりひょうきんものでいたいと思ってしまう。それは家庭が冷たいから。父親は画家で家には寄りつかず、その理由は母親が酷くあたるからだ。成人するまでは離婚はしないという体裁も、「男運がない」というおばあちゃんの呪縛も宝は知っている。声を出さずに泣いている。だから学校では明るく振る舞う。
そして好きな男の子にも気持ちを伝えない。自分の家庭環境を顧みては踏み出せずに、違う人へと気持ちを寄せるが結局壊れてしまう。毎回、悲しいストーリーで終わるが、宝の好きな男の子も実は宝が好きで言えずに高校3年生…! …おいッ!
聖千秋の描く男の子はいつでもまさに「王子様」なんです。こんな男はいないよってのはわかっちゃいるんだけど、「もう勘弁してくれよ」って程メロメロにさせてくれるので、せめて物語の中だけでも報われてくれたら嬉しいなと思ってしまうのかもしれない。まさにメルヘン…? な印象だったので、一話終わる毎に涙が出てしまうような、悲しい話で驚きでした。小学校6年から高3まで、「片想い」の彼の一言で終わるし、ついに接近と思ったら自分から遠くにいっちゃうし。再会してやっと…と思ったら、ダメだし、でも! ダメだし、でも…! 
ってことで、最後までバカみたいに泣きまくり、ハラハラし、ドキドキしました。ああ、やっぱり聖千秋はいいですねぇ。
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片雲さくら

ワイルド・サイドを歩け

ワイルド・サイドを歩け/東山 彰良 /宝島社
タイトルみて「おお、ルー・リードかよ」と思った人は読まないほうがいいかも、な。逆か? 「ウォーク・ディス・ウェイ」と言ったらランDMCなのかエアロなのかによるか? その2点において私はその扱いに「…何ぃ?」と声を上げただけだ。
目が覚めると流血してるし腰に痣はあるし頭も痛いし口の中からも血が出てくるし。24時間ほどの記憶がごっぞりない。薬で飛ぶというのはこういうことかと、見返りに男のセカンドバッグと台湾産のドラッグと拳銃を奪って理一はその場を去る。理一はジャズ好きの高校生で男娼、友達の馬素は顔からして雰囲気からして道を歩くだけでケンカになるようなヤツ。もひとり、塔は学校じゃいじめられっこで薬好きでネズミなんか飼っててちと足りないとこあるような感じだけど、馬にはケンカ売る、そんなデコボコな彼ら。ちょっとキケンな高校(?)生活を送ってきたが、理一が奪った薬のせいで…。
うーんと、最近の小説はビジョンを一つに絞ることが嫌いなのか、主役は二人とかキーパーソンは別とかキメがあるんですかね。なんか、もう一人の主役(?)イジーとやらが、なんのために存在しているのか最後まで、わからないというか好きになれなかったので、面白さが半減って感じだった。てか、このタイトルを付けといて、この曲を知ってるものがドラッグに人生振り回されちゃうような高校生に、ケツ舐められてビビってんじゃねーよ! とか思ったり。ラップが売れてもスティーブン・タイラーの存在の方がデカいだろーが! とか、観点がズレてしまうのはしょうもないのかね。そのへんでたぶん、たとえば人をファッションでしか語らないので、色の抗争しか浮かばないというか、表情が見えないというか、戦いの行方がよくわからないというか…。いやそれより、こういう内容にはほど遠い美しい表現をやたら使われるので(とくに情景描写はね、お耽美な世界みたい)、ちぐはぐな感じがした。マジメに純文学っぽいのとか、セカチュウみたいの書いたら売れるんじゃねーの? と思った。願わくばそっちには行って欲しくないけどね。
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