◆小耳書房◆
小説・漫画・ラノベ・BL、読書レビューを中心に、
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真夜中のパン屋さん/大沼 紀子
「カッコウな母親」。カッコウは托卵する鳥。自分が産んだ子供を他人に預ける母はカッコウだから仕方がないのだと、親戚やら色々預けられて育った希実はそう思っていた。腹違いの姉のもとへ行けと、母の置手紙を頼りにやってきたパン屋は、真夜中に営業する不思議な店だった。
だが腹違いの姉は半年前に他界し、その旦那と横恋慕男と二人でやっているパン屋さんに希実は住みこむこととなった。
腹が減ってると不機嫌になる。
パンはどこでも、一人でも食べられる。
まあ、確かにそうかもしれんが、電車の中やホームで食ってる人がいるとちょっと勘弁してくれと思う。立ったまま食えるとしても、「食事」と思うなら、せめて座ってくれ。
食う場所は選んでくれ。
と、常に怒っている私も腹が減ってるだけなのだろうか。
表紙の絵があまり好きになれないので、買わなかったんだけど、あちこちの店でやたら平積みになっているので、負けてしまった。たった二ヶ月で10版になっているので興味を持った。
パン職人の弘基と、やたら口げんかしまくる希実のゆるーい会話やら、ちょっとイタイガキやら、でかすぎるオカマやら、ヒッキーな覗きマニアやら、出てくる人々やら設定やらはラノベな感じがするけど、根元は世相をしっかり映しだしていたりして、桂望実や石田衣良とテーマはそれほど変わらない気がしてくる。
客さばきがやたらとうまい暮林。人を和ませる関西弁とそのやたら穏やかな顔で、いつでもなんにでも腹を立てているという希実でさえ和んでしまうというのはいいと思った。
それにしても夜23時から29時までの営業時間って、はたして本当に需要があるんだろうかね。近場に眠らない街があったりするならわからんでもないけど、せめて朝7時までやってたりするならまだ納得いく、つか、そうした方が重要があるんじゃないかね? そもそも彼らはいつ寝てるの?
希実に至っては高校生。準備中にデリバリーとかしてるとしても、なんか無理がある気がするんだよね。
「別にいいよ、心がなくても。私のを、半分あげるから」
そして油性のマジックで、暮林の胸にハートマークを描いてみせた。インクくさいと暮林が顔をしかめると、愛ってくさいものなのよと言い返された。そうなのかと暮林が納得すると、かわいい人ねと笑われた。(P275)
暮林の真相にせまるこの章が好きだ。貼りついたように誰にでもどんな状況でも、常に笑顔を見せられる人はポーカーフェイスと一緒だと、或いはどこか壊れていると思う。なので、胡散臭いと思っていたが、彼の過去と今、そしてこれからを匂わせているところがなんだが嬉しかった。
「…何がたらんくて、そんなしんどそうにしとるんや?」(P63)
このセリフは、泣かすつもりの確信犯のセリフだったのだなと納得する。暮林、善人ではない。そこがいい。
続きが出てもいいかも、しれない。